バカ田大学講義録

バカ田大学は、限りなくバカな話題を大真面目に論じる学舎です。学長の赤塚先生が不在のため、私、田吾作が講師を務めさせて頂いております。

お詫び:日本大学の学生・OBの皆さまへ

5月6日、日本大学アメフト部と関西学院大学アメフト部の試合における危険タックル問題について、母校の不祥事に大きな憤りを感じられておられる在学生、卒業生の皆さま。これは事故ではなく事件であり、起こるべく起こったことです。関西学院大学の関係者を含め、

誠に申し訳ございません。

私並びに、バカ田大学日本大学と何ら関わりを持ちません。ですが、当ブログにて教育とは何かを論じている立場上、向学心を持った若者たちの未来を守る責任があります。今回の事件を振り返り、組織の危機管理とパワーハラスメントの構造を論じます。

 

危機管理の初動

冒頭にて謝罪しておりますが、そもそも私はアメリカンフットボールの競技経験どころか、日本大学を訪れたことすらありません。さらにバカ田大学は大学法人ですらない。完全な部外者である私が謝罪している理由は、それが不祥事の危機管理だからです。

企業や大学、アイドルグループなど、組織とは多数の人間が所属しています。そして人間だからこそ過ちを起こす。この場合の過ちとは、単なるミスや説明不足の場合(飲食店の原材料や賞味期限が間違っていた)と、間違いや法令違反を認識しながら業務していた場合、後者は悪質な隠蔽と捉えられてしまいます。

組織の運営を一人で行っていた場合、「これはマズイ」と気付いた段階で立ち止まることができます。しかし組織とは多数の人間が所属する以上に、メンバーの上下関係が存在しており、下の人間は上の立場に逆らえません。そして違法行為を実行しているのは、大概下の立場の人間であることが問題を複雑にしています。

 

結局誰悪いのか?

この度の事件は、チーム監督が一選手にルール違反を指示していたことが問題視されています。アメリカンフットボールのルールでは、相手選手へのタックルは、守備を目的としたものに限定されます。

高い身体能力と体重100kgの巨体に本気の体当たりをくらえば、一般人であれば複雑骨折と内臓破裂をおこします。選手同士の衝突にも怪我がつきものであり、選手たちは捻挫や骨折,肉離れなどの負傷リスクを背負ってプレーをしています。当然選手を監督する立場の大学アメフト協会は、安全にプレーを行うための様々な禁止事項や規定をつくり、各チームに遵守するように指導しています。ルールは選手を守るために存在しており,不要な決まりごとではありません。逆にルール違反によって怪我を負わせるとは、スポーツの範疇から一般社会の傷害事件になってしまいます。

今回の事件で決定的だったのは、悪質プレーの映像がしっかり残っており,何が起こったのか明確であることです。関係者の証言が映像と矛盾すれば嘘をついていることになり、言い逃れ出来ません。映像はテレビで放映されるほかにもyoutubeSNSを通じて拡散しており,本来なら当事者たちの問題であったはずの小さな事件を日本中の誰もが知ることになります。

 

日本大学の戦略

日本大学は首都圏に多数の校舎と学部を持ち,在校生は7万人以上,卒業生は100万人を超えます。国民の100人に1人は日大出身であり、多くの卒業生が自治体や企業で活躍している日本一のマンモス大学です。国内のどの地域,組織にも卒業生がおり,日大と聞けば誰でも知っている知名度が持ち味でした。入学試験の偏差値は中程度であり、学業優秀ではないけれど落ちこぼれでもない「普通の学生」に需要があります。

かつての大学は研究者や文官を養成する高等教育機関でしたが、国民の生活水準と教育需要が上がり,特に学問が好きでもない普通の高校生たちも親は「せめて大学に行かせたい」という需要が生まれました。大学に行きたい人が増えても大学側に教える教員がいなければ学生の受け入れは出来ません。教員の育成には多大な時間とコストが掛かり、入学の門戸を広げれば学生の質が低下するため,歴史ある大学も小規模であることが多いです。

日本大学はそうした中でも理系文系の学部を増設して日本一の規模となった大学です。少子化大学全入時代になって,全国の大学は入学生を取り合っています。ここで重要なのは研究の質を上げるために優秀な学生を取り合っているわけではありません。学問への熱意はないけど社会で活躍したい普通の学生を「学費を払ってくれるお客さん」として扱っているのです。日大に限らず、どの大学でも学生を受け入れるのは、学費を払ってくれるという経営上の理由なのです。だからこそ貧困家庭の子どもに教育機会を与えるという名目で、数百万円の奨学金や教育ローンを無担保で借してくれるのです。

1960年代,大学闘争が激化していた時代には、日大は最も激しい闘争が行われた大学でした。当時の一般家庭はまだ貧しく、学費を滞納する学生が多かったのに対して、日大の経営陣は学費の使い道が不透明であることが問題となりました。「大学とは学問の場でなく経営である」ことが日本大学の戦略です。大学経営を持続するためには学生,企業,高校,保護者などの利害関係者に対して「この大学に入りたい、子どもを入れたい」と思わせるような宣伝と大学ブランドが必要になります。日大は医学部と獣医学部を持っており,理工学部も質の高い研究を行っていますが、理系の学部は進路が明確な学生が入学するため,日大の主要顧客である「自分が何になりたいか分からないからとりあえず大学に行く」モラトリアム学生を文系学部に取り込むためには,学業以外での目立った実績が必要になります。学生ボランティアや地域活動を盛んにしても、実績という概念での評価は難しい。それに対して勝ち負けが明確であるスポーツは大学間の差異が一目で分かります。さらにテレビ放送されることで、大学の宣伝を全国に行える。

地方大学と異なり首都圏の総合大学は日本各地から学生が上京するので、全国的な知名度はとても重要です。学問研究の分野で実績をあげられないならスポーツ分野を強化する。日大の経営陣である理事会は体育会方針を採用し,スポーツ科学部を新設しました。現在は多数のオリンピック選手が在籍しており,アメフト部の選手たちも所属しています。日大経営陣は勝利至上主義の体育会組織である。今回批判の矛先となっているアメフト部の監督は、理事会の常務理事であり理事長のNo2という立場でした。大学経営の中枢におり,アメフト部のコーチたちだけでなく、大学職員の誰もが意見を言えない状況だった。これが事件の下地になります。