バカ田大学講義録

バカ田大学は、限りなくバカな話題を大真面目に論じる学舎です。学長の赤塚先生が不在のため、私、田吾作が講師を務めさせて頂いております。

日本のエネルギー資源

日本はエネルギー資源として石油や天然ガスを全て外国からの輸入に頼っています。原子力発電所は再稼働の見込みが立たないため、国内電力の8割以上を火力発電に依存しています。

近年はマレーシアやインドネシアから天然ガスの輸入量が増えていますが、燃料資源の輸入のために年間数兆円の貿易赤字が出ており、電気料金も値上げされています。経済界からは原子力発電所の再稼働を求める声も高まる中、世論の反発も強い。今回は日本のエネルギー政策の現状と今後の方針を考察します。

 

原子力発電

原子力発電はウラン235を低レベルの核分裂状態におき、発生した熱で水を沸騰させて蒸気タービン発電機を回す構造です。構造だけ見ると理科の実験並みに単純なのですが、核分裂したウラン235は「消えないマッチ」なのです。

石油や天然ガスなど、酸素と化学反応で熱エネルギーを出す物質は一度燃えるとそれ以上熱エネルギーを出しません。しかし核分裂反応は一度始まると一ヶ月以上燃料を交換しなくても熱エネルギーを放出します。化学反応より遥かに高エネルギーですが、ウラン核分裂反応を止める方法がありません。

使用済み核燃料は原子炉から取り出した後も高熱と放射能を数百年放出するため、核燃料の処理はどの国も悩みのタネです。放射能半減期が来るまで保管するしかないのですが、核燃料が外部に流出するとテロリストに渡る危険があるため、保管施設は厳重な警備が必要です。

日本国内には原子炉稼働時からの使用済み核燃料が処理されることなく溜まっています。国は地層処分の候補地を探していますが、地震リスクのない土地はどこにもなく、人の住まない場所も何処にもありません。使用済み核燃料を受け入れる自治体がない現状では、原子力発電の本格的な再稼働は見通しが立たないのです。

 

水力発電

ダム湖にためた水を、高低差を利用して滝のように落とし、水の落下エネルギーで水車を回す発電方式です。電力消費量の1割を占めています。燃料が不必要なので半永久的に発電できること、二酸化炭素の排出がないことがメリットです。デメリットは、初期投資として巨大なダムを建設する必要があり、自然環境への負荷も大きいです。夏場などで降水量が減るとダムの貯水量も減るため発電量が安定しません。

日本国内はほぼ全ての河川にダムを建設しており、これ以上水力発電所を増やせない状況です。近年は農業用水路や下水路に小型発電機を設置する小規模水力発電がありますが、発電機が小型のため発電量も少なく、普及してはいません。

 

火力発電

化石燃料を燃やした熱で水を沸騰させ、蒸気タービンを回す発電方式です。やかんで湯を沸かすような単純な原理であることから、火力の調整によって発電量をコントロールしやすく、電力供給が最も安定しています。初期の火力発電には石炭が使用され、現在は天然ガスを燃料とすることが多いです。

火力発電は大量の二酸化炭素を排出するため、温室効果ガス削減に取り組むための京都議定書は発行出来ていません。また、エネルギー資源のない日本では化石燃料を他国からの輸入に頼る他になく、過去には中東戦争イラン革命OPECによる原油価格の決定により石油危機に見舞われています。

東南アジア諸国から天然ガスの輸入量を増やしているのは地政学的なリスクを避けるためでもあるのですが、エネルギー資源を他国に依存する状況は貿易赤字を拡大するため、国産エネルギーの比率を上昇させるかが課題となります。

 

太陽光発電

アルバート・アインシュタインは、光は粒子であり電子の運動エネルギーに変換出来る「光電効果」の発見により、1905年にノーベル物理学賞を受賞しました。光の粒子を二層の半導体に当てると、表層内の電子は裏層に移動して電荷が発生します。この原理を使用したのが太陽光発電であり、シリコンパネルを設置すれば燃料不要で半永久的に発電出来ます。

福島第二原発放射能漏れ事故により電力事業全体が改革される中で、安全性が高く家庭にも設置出来る太陽光発電システムを国も推進しています。

太陽光発電のメリットは、燃料不要で二酸化炭素を排出しない。建物の屋根や休耕地など場所を選ばずに設置出来る。電気を発電する場所と消費する場所が近いため送電コストが低い。発電施設が広範囲に点在するため災害時にも電力を確保出来るなどがあります。

デメリットとしては、シリコンパネルの製造コストが高く発電コストの採算が取れない。日照量に発電が左右されるので電気を安定供給出来ない課題があります。天気が曇りがちで冬場に雪が降る日本海側では向いていません。国は太陽光発電の電力を高く買い取ることで太陽パネルの普及を進めています。また電力を安定供給するために電気を貯める水素電池の研究が続いています。

 

風力発電

風車の回転エネルギーで発電します。風が吹けば半永久的に発電出来ます。風車の製造コストと発電コストは太陽光発電の数分の一であり、海から風を受ける場所に設置が進んでいます。

デメリットとして風が吹かないと発電出来ないため電力の安定供給が難しい。風車の回転で発生する低周波が人体に悪影響となる。人によっては耳鳴りと目眩が起こります。希少な鳥たちが風車の回転翼にぶつかる事故もあります。

近年、低周波の発生を抑えて数倍の発電効率を持つ「風レンズ」という新式の風車が登場しています。常に風が吹いている海上に風車を浮かべる研究も行われています。

 

潮力発電

潮の満ち引きを利用して、干潟にダム型の水力発電設備を設置する方式です。本来のダムは貯水と洪水防止のために造られるもので、水力発電は付属設備です。そのため潮力発電のためだけに大規模施設を作ることが難しく、現在はフランスに一ヶ所だけ稼働しています。津波の危険もある日本には不向きな発電です。現在は実験段階ですが、洋上の海流エネルギーで発電タービンを回す装置が開発されています。

 

燃料電池発電

貴金属の触媒を通じて水素やメタンガスを酸素に反応させてると、電子の負荷と熱エネルギーが発生します。電気と同時に熱エネルギーにより熱水を作る装置が燃料電池です。火力発電では燃料を燃やして電気エネルギーを取り出しても熱エネルギーは捨てるしかありません。燃料の全エネルギーの中で、家庭に電気として供給されるのは10%程度といわれており、熱エネルギーの有効利用が課題でした。燃料電池はその課題を解決するために造られた装置であり、ENEOS社は家庭用燃料電池を発売しています。

 

バイオマス発電

間伐材などの木材を細かく粉砕し、火力発電する方式です。排出した二酸化炭素は元の木が吸収していたと見なされるので、温暖化対策に有効とされていました。木材資源が豊富で既存の発電所が遠い山間部などではエネルギー供給に有効な発電方式です。作物の茎などをバイオエタノールに変換する研究も続いています。

 

地熱発電

地表近くまでマグマで熱せられ水蒸気が噴き出す場所で蒸気タービンを回す方式です。アイスランドでは一般的な発電ですが、日本国内は設置場所が限られるための発電量は僅かです。

 

核融合発電

「地上の太陽」ともいわれる次世代の原子力発電構想です。重い原子核を軽い原子核に分裂させることが核分裂発電ですが、水素などの軽い原子核を光速で衝突させて重い原子核に融合させ、その際のエネルギーを取り出す発電方式です。実現すればエネルギー資源の枯渇はなくなり、どの国も無尽蔵にエネルギーを使えるとされます。

しかし核融合反応は高エネルギー状態でしか起こらないため、核爆発を内部に閉じ込めることができる特殊な融合炉が必要です。日本も参加した国際共同研究をフランスの実験炉で行なっていますが核融合の安定化はできていません。

 

スマートグリッドシステム

これまでは発電方式について述べてきました。電力全体の発電量から見ると自然エネルギー発電は数%です。殆どを火力発電に依存している状況で、自然エネルギー発電への転換は荒唐無稽だという意見は多いです。

しかしここで考えたいのは、そもそも何故これだけの電力が消費されているかということです。人々が活動する日中の電気消費量は増え、夜になると減りますが、発電所はエネルギー効率のために夜間も昼間と同量に発電しています。また、エネルギー量を考える場合、発電以外にも送電コストや燃料の輸送コストを含める必要があります。そして日本国内は生産人口の減少によって消費電力全体が減るのです。

東日本大震災の際には電力供給が追いつかず、各地で計画停電を実施しました。発展途上国には多くの日本企業が工場を作っていますが、それらの地域は1日に何度も停電します。日本では停電が起きないように発電所の供給電力は需要を上回っているのですが、もしも日中の計画停電に地域住民が同意すれば、全体の発電量は1-2割減らせます。

本来私たちが取り組むべきは節電なのです。とはいっても家庭の電気をこまめに消すという話ではありません。契約しているアンペア数そのものを落とすのです。企業も同様に、アンペア数を落とした上でオフィスの照明や冷暖房をコンピュータ上で管理することで生活に支障をきたさなくても節電出来ます。このように電気が必要な場所と不必要な場所をリアルタイムで確認し、コンピュータで必要箇所にのみ電力を供給する方式がスマートグリッドシステムです。