バカ田大学講義録

バカ田大学は、限りなくバカな話題を大真面目に論じる学舎です。学長の赤塚先生が不在のため、私、田吾作が講師を務めさせて頂いております。

猫はなぜ死んだのか?

 

100万回生きたねこ (講談社の創作絵本)

100万回生きたねこ (講談社の創作絵本)

 

 



 

あらすじ:

ある時猫は国王に飼われ、死んだ時飼主は泣いた。ある時猫は船員に飼われ、死んだ時飼主は

泣いた。死んでは生き返る人生を百万回繰り返した時、猫は誰にも飼われず唯の猫であった。

雌の白猫に、自分が百万回死んだ事を誇るも、

白猫はツレない。猫は白猫の側に居たいと

素直な気持を告白し、やがて白猫との間に子猫が産まれ育つ。そしてある日、白猫は寿命が尽きて死んだ。猫は妻の死に対して百万回分の涙を流して泣き続けた。そして自らの死を迎えた時、二度と生き返ることはなかった。

 

「生物は何故死ぬのか」

生物を構成する細胞は単体で生命活動を行えますが、機能が低下すると死滅します。しかし細胞は自らのDNAを複製して、同じ機能と遺伝子を引き継いだ細胞を増やすことが出来ます。単細胞生物はこうして増殖します。

多細胞生物の体内で複製された細胞は、また複製を繰り返すのですが、次第にDNAコードのエラーも多くなります。このDNAエラーを有した細胞が体内組織に多くなる状態が老化であり、生命活動全般を維持することが出来なくなれば個体としての死を迎えます。しかし多細胞生物の胎内にはDNAを完全に保った卵細胞があり、これが成長すれば遺伝子を受け継いだ個体の分身として生きていきます。

 

「単為生殖」

原始的な生物は自分の卵細胞のみでクローン生物を生み出す単為生殖を行います。クローン生殖は最新技術だと思われがちですが、実際には生物古来の生殖方法です。単為生殖は自分一人で生殖可能であり、生まれた子供は自分の遺伝子を完全に受け継いだ分身です。これが「生まれ変わり」です。物語の猫は単為生殖を百万回繰り返し、遺伝上は死ななかったと考えられます。

 

有性生殖

単為生殖は遺伝上死ななくなりますが、一つの種族が同一のDNAで構成されるため、環境が変化すると絶滅する危険があります。例えば飼猫がキャットフードしか餌に出来ない場合、野良猫になれば、猫族全体が絶滅します。しかしそこに、ネズミも餌に出来る猫族がいれば絶滅は免れる。種族として生き残るには、自分のDNAを受け継ぐだけでなく、他の個体とのDNAを併せ持った混血種を生み出す必要がある。これが有性生殖であり、高等生物が雌雄に別れている理由なのです。

 

 「猫の死の理由」

猫は長年、単為生殖を繰り返し、完全なDNAを受け継ぐことで100万回生き返っていました。単為生殖は自分一人で完結する行為であり、飼猫として飼われても誰かを愛する必要がなかったのです。しかし白猫と出会った時、猫は誰にも飼われて居ません。この時は飼猫から野良猫に変化する必要があり、飼猫の状態で単為生殖を行なってもいずれ全滅します。種族として生き残るためには、野生のDNAを受け継いだ混血種を生み出す有性生殖に切り替わるしかないのです。こうした理由で、猫は白猫を愛し始め、彼女との間に互いのDNAを受け継いだ子供を設けています。

白猫が死んだ時、猫は彼女が生き返ることがないと悟ります。白猫は自分との間にDNAを受け継いだ子供がいるので、生き返る必要がないのです。そして猫が死んだ時も、自分から愛したパートナーのいない世界に生き返ることを選択しませんでした。猫の亡き後を、自分と白猫の半身である子どもたちに託したのです。

 

「生物は死ぬことを選んだ」

誰もが死を避けたいと願います。クローンとして生き返りたいと考える人もいるでしょう。

ですが、忘れてはいけないのは、我々生物は

次世代を残すために、敢えて死ぬことを

選択しているということです。私たちは

いつか死ぬのです。愛する人のために。