バカ田大学講義録

バカ田大学は、限りなくバカな話題を大真面目に論じる学舎です。学長の赤塚先生が不在のため、私、田吾作が講師を務めさせて頂いております。

百獣の王は「ネズミ」

強い動物として、何を思い浮かべるでしょうか?ライオンやトラ、オオカミなどの肉食動物から、ゾウやクジラなどの大型動物もいます。

ですが自然界最強の哺乳類はネズミです。

何故って、浦安の某テーマパークに行けば人気の差は一目瞭然・・・。

では本題に入りますが、ネズミが最強の理由は環境適応と繁殖能力が桁外れなのです。

「個体の大きさと環境適応」

ネズミ属は世界中に1300種が知られていますが、寒帯から密林、砂漠までどんな環境下でも

生息します。個体が小さいために、少ない餌で生きられるためです。またネズミは雑種性であり、昆虫から穀物、残飯や家畜の糞まで何でも餌に出来ます。ネズミは小さい生き物と思いがちですが、南米に生息するカピバラは体長70cm、化石からは体長200~300cmに達する大型ネズミ属が近代まで生息したことが分かっています。生き物のサイズは、餌と天敵に対する戦略によって決まります。氷河期の到来で寒冷化した地球は餌に乏しく、多くの大型哺乳類が

絶滅していますが、大型ネズミもその際に絶滅しました。以来ネズミ属は厳しい環境下で生きるために体型を小型化しています。国内で身近にいるクマネズミは体長10cmに満たず、ドブネズミでも体長20cm程度です。人間と比較しても非常に小さく、簡単に倒せそうですがこれが難しい。ネズミの基本戦略は「逃げる」だからです。彼らは配管や天井裏など天敵が入り込めない隙間を住処にしています。野生ネズミも同様に、岩の裂け目やモグラの地中トンネルに巣を作ることが多いです。

 

「繁殖能力」

ハツカネズミは、生後20日で成熟することが名前の由来であるように、ネズミは交尾から1ヶ月で出産でき、子ネズミが生殖能力を獲得するのも生後1ヶ月程度と大変早熟です。江戸時代の和算書「塵劫記」には1組のネズミが1年間でどれだけ増えるかの計算問題があり、これが

「ネズミ算=2×NのX乗:累乗数Xは回を重ねるほど数字が膨大になること」の語源となっています。例えばドブネズミの寿命は1年ですが、毎月10匹前後の子供を産むことが出来るため、

雄雌が餌が豊富にあり天敵がいない環境下に生まれた場合、1年で2×(10の11乗)=2000億匹に増えます。

「ネズミに支配された島」

ネズミは猛禽類や小型哺乳類など多くの天敵に

食べられるため、生態系が保たれていれば大量発生することはありません。しかし他の大陸から切り離され、有袋類による独自の生態系をつくっていたオーストラリア大陸は、人間が持ち込んだネズミが大量発生し、数千種ともいわれる固有種が絶滅しました。オーストラリア政府が海外からの検疫で、外来生物の持ち込みに大変厳しいのは苦い過去があるからです。小麦や大豆などの生産大国であるオーストラリアは

ネズミにとって楽園であり、現代でも数年に1回は郊外の街をネズミが覆い尽くします。

隣国ニュージーランドでも事情は同じでした。

それまで哺乳類が殆ど居なかったニュージーランドは鳥たちの世界であり、飛ぶことをやめた固有種の鳥類が多数生息していましたが、ネズミの繁殖により多くの鳥類が絶滅に瀕しています。政府も駆除作戦を行っていますが、ネズミの根絶に成功した島は数例で、攻防が続いて

います。

「ネズミと疫病の歴史」

環境適応力の高いネズミは下水や埃に塗れても

生きられるため、都市部のネズミは非常に不衛生であり、大量の病原体を持っています。

人類の歴史は疫病との闘いの歴史ですが、「腸チフス」「ペスト」などの疫病が拡大したのはネズミが病原体をばら撒いたからです。特に中世ヨーロッパは何度もペストが大流行しており、14世紀の流行ではヨーロッパ全人口の1/3にあたる7000万人が死亡したといわれます。

多数の死者が出た国では他国への難民が続出し、国力がなくなったことで国家間の軍事力

も逆転します。西洋史はネズミたちが動かしていたのです。19世紀までロンドンやパリなどの

大都市ですら、上下水道の整備はおろか家の中にトイレすらありませんでした。人々は樽の中に用を足すと、アパートの階上から下の道路に

ウンコをぶち撒けたのです。通りは汚物にまみれ、そこをネズミが駆け回るのですから一度疫病が発生すると、一瞬で都市全体に拡大しました。20世紀になると疫病の拡大を防ぐ公衆衛生の概念が人々に理解されるようになりました。都市部に上下水道が整備され、ネズミの餌となるゴミ処理、殺鼠剤を使用した駆除も行われた

ことで、人類はようやくネズミと疫病禍から逃れました。国内ではペスト発生は過去に数例のみです。ですがドブネズミはダニや汚染物を撒き散らしてアレルギーの原因となり、クマネズミは電気コードを嚙るため火災の危険があります。ネズミ駆除の重要性は現代でも同じです。

「人間とネズミ」

繁殖能力が強く、穀物を荒らすネズミは古代から人間に嫌われていました。現代でも同じですが、医学研究の分野では動物実験の対象として

ネズミは重要になりました。1ヶ月で成長・繁殖するため、遺伝子病の影響を検証し易いのです。アフリカオニネズミはアフリカ大陸中部に生息する大型ネズミで、現地では食用にされていました。ですが性格が大人しく人に慣れ易いので、欧米ではペットとして人気があります。

近年では優れた嗅覚を活かし、アフリカ各地の内戦で埋められた地雷の除去に使われています。人間とネズミの愛憎関係はこれからも続いていくでしょう。