バカ田大学講義録

バカ田大学は、限りなくバカな話題を大真面目に論じる学舎です。学長の赤塚先生が不在のため、私、田吾作が講師を務めさせて頂いております。

犯罪と法律の前後関係

国会ではテロ等準備罪、いわゆる「共謀罪」の

審議が佳境に入っています。テロリストや反社会勢力の活動を未然に防ぐための法律が何故ここまで審議に揉めているのか、今回はその構造を司法制度から考えていきます。

 

犯罪するつもりの罪

テロ等準備罪がこれまでの法律と大きく異なる点は、「協議」=犯罪計画について話し合う段階で逮捕出来るということ。従来は武器の購入などの具体的準備の証拠が必要だった逮捕要件が大きく拡大します。

犯罪について話し合う段階で逮捕するということは、警察はこれらの団体を監視・盗聴しているという前提があります。例え国家権力であっても盗聴は個人の情報を勝手に収集する行為であり、裁判の証拠に出来ません。警察は裁判所の捜索令状なしでは、個人の家宅捜査も出来ないからです。今回の法律は警察による盗聴を合法化するため、市民団体は国家権力の横暴だと反発しています。

犯罪に適用する刑罰は様々であり、最も重い外患誘致罪は適用されれば死刑です。これは政府の転覆を図る目的で外国の武装勢力を国内から

手引きした時に適用されるのですが、幸いなことに制定されてから一度も適用がありません。このような刑罰が必要なほど国家にとって内部の裏切りは恐ろしいのですが、全ての刑罰には犯罪が実際に起きてから適用されるという基本原理があります。

映画「マイノリティ・レポート」は、予知能力により犯罪が起きる前に逮捕出来る法治システムを描いていますが、この映画の世界は「これから犯罪をする」人物を逮捕するため「実際に犯罪は起きていない」のです。

一般市民にとって犯罪を未然に防げる意味で理想的に思えますが、現実の世界では過去に起きた犯罪を立証することは可能でも、未来に起きると思われる犯罪を立証するのは不可能です。

 

犯罪を未然に防ぐ

トーカー殺人など、警察が事前に犯人の情報を持っている場合では、殺害を未然に防げなかったのか対応が問われるケースがあります。

しかしどれほど危険人物でも「犯罪を起こしそうだから」という理由では逮捕出来ません。

逮捕・勾留期間には何も出来ないので、裁判が

始まる時には、(本来は殺す予定だったけど)実際には何も起きていないというパラドックスが生じます。

ここに犯罪を未然に防ぐ難しさがあります。野生動物であれば過去に何もしなくても、「作物を荒らしそうだから」「人間を襲いそうだから」という理由で駆除出来ます。動物に人権はないので、最もらしい理由があれば殺せますが、人間相手だとそれが出来ません。

未成年者の場合には、「虞犯性=犯罪・非行を起こしそう」という理由で深夜徘徊している少年などを補導出来るのですが、これは未成年者の保護が目的であり、少年らは罰せられることはありません。

本来の刑法は犯罪の後に適用されるものです。しかし実際にはテロなどの重大事件が起きてからでは遅い。共謀罪はこの限界に挑戦していると考えてられます。

 

共謀罪の適応と効果

テロ等準備罪は、反社会勢力を対象としており、一般市民に対しては犯罪計画を話し合っても適用外であると政府は説明しています。犯罪を本気で計画している時点で反社会的ですが、

法律の適用対象をどこまで拡げるかは政府の

裁量次第です。

ドラマや小説では、頻繁に異常犯罪が起きてますが、原作者が作品の中で何人殺しても罪には問われません。憲法による内心の自由が保障されているからです。内心の自由は、どれだけ異常で危険な思想でも考えるだけなら自由であるという権利ですが、共謀罪の適用を拡げすぎると在日外国人や宗教法人、市民団体などにも警察が介入することも考えられます。

戦時中に施行された治安維持法は、反政府勢力の活動を事前に取り締まることにより社会の秩序を保つ事を目的としており、特高警察が戦争に反対する民間人を逮捕・尋問していました。日本国憲法内心の自由は思想弾圧の歴史を繰り返さないために制定されましたが、共謀罪の適用拡大は内心の自由に接触すると危惧している人々もいます。逆に適用対象が狭いと、警察による監視が反社会勢力に十分届きません。

連合赤軍日本赤軍などの国内過激派は消滅し、暴力団には暴力団対策法が適用されるので、ここでの反社会勢力とは国外のテロ集団を想定しますが、犯罪を話している段階では誰にも危害を与えていないため重罪には出来ません。テロ集団のメンバーを尋問して、犯行計画未然に防げればベストですが、警察がメンバーを勾留するためには逮捕する根拠が必要です。犯行計画を「立案した」段階で逮捕出来ればそれが可能なのですが、仮に計画が失敗した場合、「犯罪は起きなかった」ことになり、不起訴になりかねないので、犯人たちをどのように立件するかが問われるでしょう。